涙の雨
―ドキドキするな…
保健室の前に立っても
すぐに扉を開けれなかった
でも電気はついてるから
中に望月がいるのは確実
ここへ来る前に、友達からもらったティッシュペーパーが真っ赤に染まるほど
傷口からは血がドクドク出ている
―望月先生だからな。望月先生。
間違っても“尚輝さん”って言うなよ?
自分自身にそう言い聞かせせて
恐る恐る引き戸を開けた
「望月先生…?」
部屋はガランとしていて、全く人気を感じなかった
デスクの上には
教材みたいのが置きっぱなしだったし
室内には煙草の匂いが微かに残っていた
―どっかに行ってるのかな?
俺はデスクの上にあったティッシュの箱から一枚、紙を取り出して
血が溢れ出す傷口にあてた
久しぶりに来た保健室
去年のあの時以来、一度も来ていない
でも本当のところ
来たくなかったんだ
望月に会う事はもちろんだけど
たくさんの思い出が
あの場所にはありすぎたから
いい事も悪い事も
時間なんかで解決出来ないぐらいに