涙の雨
「すげぇな!遼太!山田先輩に名前覚えてもらえたなんて!」
下駄箱に向かう廊下で
賢二が一人で騒いでる
「別に…嬉しくないよ、俺は」
山田に名前を覚えてもらったからといって
得したなんて俺は感じなかった
それよりも…
「遼太?どこ行くんだよ、下駄箱こっちだろ?」
「あ…、悪いけど用事思い出したから先に帰ってて?」
分かれ道の廊下で俺は賢二と別れた
俺が向かう先に保健室がある
―ただ前を通るだけ
それだけだからな
そう言い聞かせて
廊下を一人歩き出した
既に下校時間を過ぎている校舎は
人影も少なくて生徒もあまりいない
俺がいる廊下も
誰一人歩いてなかった
そして少し歩くと
保健室の扉から部屋の明かりが漏れているのが
目に飛び込んできた
―まだいたんだ!
心臓が一気にドキドキしてきた
保健室に近づけば近づくほど激しく動く
そして扉の前に立つと
開けるか開けないか正直迷ったけど
意を決して引き戸を開けた