Sin(私と彼の罪)
走ったので息が切れている。
心臓がどくどくとうるさかった。
鍵を探すだけでも、煩わしい。
そう思いながらポケットをまさぐる。
やっと出てきた合鍵を乱暴に差し込み、勢いよくドアを開けた。
「志乃!」
返事はない。
俺はずかずかと部屋に侵入した。
寝ているのかもしれない。
今はまだ明け方だ。
そう自分に言い聞かせながら、はやる気持ちを抑えて寝室のドアを開く。
「…!」
そこに彼女は居なかった。
使った様子のないベッドがあるだけ。
嘘、だろう?
愕然とその光景を眺める。
辺りは志乃の香りで充満している。
振り向けば、彼女が居そうなほどに。
でも、居ない。
どこへ行ってしまったんだ?
守ると。
守ると、誓ったのに。
息をついてから、彼女の行きそうなところを考える。
バイト先のレンタルショップ。
近くのスーパー。
シイナちゃんのところ。
母親の、大きな白い病院。
だめだ。
わからない。
そもそもこんな時間に外出するわけがない。
どこに行ったんだ?志乃。
俺はすがる思いで自分の黒光りのする携帯へ手を伸ばした。
かかるかもしれない。
もしかしたら、寝れなくてコンビニとかに行っているだけかもしれない。
彼女の番号を引き出し、通話ボタンを押す。
呼び出し音が鳴るのを祈る思いで聞く。
しかし同時に聞こえたのは、ヴーヴーというバイブ音。
まさか、と思って振り向くと、テーブルの上で志乃の携帯がチカチカと光っていた。