Sin(私と彼の罪)
携帯も持たずに出かけたのか?
そんな不用心なことをするはずがない。
ということは…まさか。
携帯を床に置く。
そのまましゃがみこんだ。
両手で頭を抱え、低く唸る。
なんてことだよ。
志乃が、居ない。
ヨコイに先を越されたのだろうか。
そのまま連れ去られた?
それとも、もう…
彼女はヨコイの組織の情報を知っている。
奴らにとって要注意なのはわかりきっていたはずなのに。
それに一人で勝手に出歩くはずがない。
あんなに疲弊して、怯えていたのだ。
そんな体力はないはず。
ヨージの言葉が気がかりだった。
あいつは何かを知っている。
志乃が危ない、というのは確かなことだ。
辺りは静寂に包まれていた。
暗闇をカーテン越しに月明かりが照らす。
今日も、こんなに月が明るい。
ぼんやりとしたその影を、睨んだ。
身体は疲労で泥のように重い。
さっき弾がかすった腕が、ビリリと痛む。
手当する暇もなかったから、しょうがない。
静かさが、余計に俺を苦しめる。
静かだ。
ここは。
…静か……?
いや、違う。
俺は耳をそばだてる。
すると微かな音を、捕えた。
消えそうなほど小さい。
これは、水音?
「!!!」
とっさに身を返して寝室を飛び出す。
本当に、いないのか?
志乃は。
もつれそうな足を動かして、一直線に洗面所に向かう。
嫌な、予感がした。