Sin(私と彼の罪)
真っ先に目に映ったのは、陶器のような透明さのある、彼女の太ももだった。
その目を見張るような白さに、身体が止まる。
それからやっと、俺は彼女が血で塗れていることに気付いた。
「バカ野郎…っ」
慌てて彼女に近付く。
顔は蒼白で、泣き腫らしたあとがあった。
唇などは紫に染まり、まるで生気がない。
「…てめぇ、何してんだよ!!」
怒鳴っても、反応はない。
余計に悔しくて、泣きたくなる。
浅い息を繰り返して、狭いユニットバスのタイルにだらりと横たわる志乃。
髪が四方に散り、頬や身体に張り付いている。
出血してから時間が経っていたようで、至るところに赤黒いものがこびりついていた。
しかし、手首からはまだヌラヌラと滑らかな血液が光っている。
「…ぁ…」
彼女が小さく声を発した。
しかし、聞き取れない。
カサカサになった唇から、吐息のような音が漏れるだけだ。
俺はとりあえず、近くにあった薄いタオルで彼女の二の腕をきつくしばった。
それから体についた、すっかり固くなってしまった血液を丁寧に洗い流す。
この程度の出血なら、命に別状はない。
経験上そう判断する。
彼女の状態は出血が原因ではない。
確かに血は流れているが、量はそんなに多くない。
傍に落ちていた剃刀を見るかぎり、自殺を図ったのだろう。
手首には浅いが、しっかりと剃刀の傷がついていた。
なぜ、そんなことを…!!
歯を噛み締める。
彼女を抱く腕に、力がこもった。
守る、そう決めたのに。
俺は何をしていたんだ。