Sin(私と彼の罪)

俺は促されるまま、スガヤの部屋へ入った。


相変わらず息のつまる場所だ。
そう思って顔をしかめる。


重苦しいデスクの前にある、向かい合わせになったソファにタキが座っていた。
奥にあった茶色いソファに志乃を横たわらせ、タキの隣に深く腰掛ける。



横目で志乃をみると、腫れた目を閉じて静かに眠っている。
スガヤに断って、鎮静剤を打ったからだ。

頬にはまだ涙の跡がついていた。




「なんというかまあ……お前はいつでも楽しませてくれるなあ」



デスクを背中に、スガヤは言った。


今日はすこぶる機嫌がいいらしい。

さっきからずっと口元が緩みっぱなしだ。



「少々後始末は面倒だが…いや、実に面白かったよ、善」



ヨコイとヨージの件のことだろう。

あれのどこが"楽しい"だ。


反吐が出る。





「まさかあそこで撃っちゃうとは、流石だよ」

「ああそうかよ。そりゃよかったな」

「久しぶりにゾクゾクしたなあ。だからお前は気に入ってるんだ」




そんなこと言われたってうれしくもなんともない。



ああ、思い出す。


あの月の明るい夜も、この男はこんなふうに笑った。



思い出して気分が悪くなる。


俺はポケットに手を突っ込んで、黒い箱を取り出す。


「…そんなことより、本題だ。肝心のヨージは居ないのか?」


煙草に火をつけて、紫煙を吐き出す。
疲れがどっと押し寄せた。


「…ああ、ヨージねえ」


スガヤが目を宙に向ける。


「今は喋れる状態じゃないな」


タキがそう付け加えた。



その言葉で、思い知る。



本部は地下5階まである。
その一番下に、拷問室がある。



ヨージは裏切り者だ。



きっと今は生と死の狭間を彷徨っているのだろう。


暗く孤独な、地下室で。


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