Sin(私と彼の罪)
志乃の携帯を握り締めて、動かない俺の肩にタキが触れた。
「ヨージが聞いてもいないのに、彼女のことをよく喋ったよ。…お前は気付かなかったのか?」
「…何にだよ」
「その様子じゃわかっていないようだな。油断したな、善」
「いいから言えよ!」
苛立った俺は、声を荒げる。
タキは呆れて引き下がった。
「…盗聴器だよ。向こうが仕組んだとしても、組織の情報が漏れたんだ。マークはするだろ」
「……」
両手で頭を抱える。
だから“秘密を漏らした罰”なのか。
何故気付かなかったのだろう。
のこのこと彼女に会いに行っていたのに。
あの話を聞いたときから、もっと警戒するべきだった。
志乃は俺に喋ってしまったのだ。
ヨコイの組織の情報を。
彼らがグリモワールの下でカジノを経営していることを。
勿論、あいつらのやることだ。
普通のカジノじゃないのだろう。
志乃はヨコイに気に入られている。
そう思って油断したのがよくなかった。
確かに、気に入っていたのだろう。
秘密を漏らした彼女自身に「罰」は加えていない。
しかし、彼女の周辺に被害が及ぶとは。
「盗聴器……か」
落胆して呟く。
「ああ」
「いつからだ」
「ずっとだろう。お前と彼女の会話を毎日聞いていたそうだぞ」
「畜生…!」
力任せにテーブルを殴る。
右手に鋭い痛みが走る。
けたたましい音と共に、置いてあった灰皿が床に落ちた。
穏やかな目で俺を見つめていたスガヤが、それを拾った。
「お前に拷問を頼めば良かったかな。…別に殺しても構わないのだし…」
本音では確かにそうしたかった。
でも、そんなことをしても俺の気は晴れないだろう。
虚しいだけ。
志乃を守り切れなかった後悔に、悩まされるだけだ。
「…やらねぇよ」
「そうか。残念だな」
ちっとも残念そうな顔なんてしていない。
「…………畜生」
俺はもう一度呟いた。