Sin(私と彼の罪)


またどうして店長がそんなことを言うのかが、わからない。

大体、私の手料理なんてたいして旨くない。



「いやいや、だったらファミレスでも行ったほうがいいですって。たいしたの作れません」

「いいんだよ、最近外食かコレばっかなんだ」


カゴを少し上げてカップ麺を見せられる。

色とりどりの文字を見ると、パスタやらヤキソバも含まれていて、彼のなかに飽きがきていることを悟る。


「いいですけど…」


なんか腑に落ちない。

まあ、いいや。奢ってもらえるし。


そんな浅はかなことを考えていると、店長が私の頭上を見ていることに気付いた。



「何見てるんですか…」


ちらりとその方向を見ると、男の胸が視界に映った。




真黒なTシャツ。


自然とさっきの煙草のパッケージを思い出す。



顔をあげると、そこにはあの男が無表情で佇んでいた。




「お前、知り合いか?」


店長が驚きながら私に聞いた。
それもそうだ。

一瞬、モデルかなんかかと思った。



「まあ、一応」



しどろもどろに答えると、男が私の腕をつかんだ。

ぱっとヤツの顔を見上げると、なぜだか見下ろされて不快になる。



「一応ってことないだろ。昨日の夜は…あんなに可愛かったのに」




その言葉を聞いて店長がすべてを悟ったように慌てて口を開いた。



「な、なんだお前。こんな男前なカレシいたんか!」

「や、あの。そうじゃなくて」



あくまで冷静に否定する。

そんな勘違い、冗談じゃない。



「いいんだよ、じゃあ料理はまた今度な!」

「店長、カレシじゃなくて…」

「なに照れてんだよ。俺、嬉しいよ。嫁にやる気分だけどな」



私の話を聞こうとしないで、にやにやと笑っている。

まずい、明日バイトに行ったらみんなに言われる。



「仲良くな!」


どうも上機嫌になった店長は、そう言ってすたすたとレジに行ってしまった。



< 12 / 126 >

この作品をシェア

pagetop