Sin(私と彼の罪)
またどうして店長がそんなことを言うのかが、わからない。
大体、私の手料理なんてたいして旨くない。
「いやいや、だったらファミレスでも行ったほうがいいですって。たいしたの作れません」
「いいんだよ、最近外食かコレばっかなんだ」
カゴを少し上げてカップ麺を見せられる。
色とりどりの文字を見ると、パスタやらヤキソバも含まれていて、彼のなかに飽きがきていることを悟る。
「いいですけど…」
なんか腑に落ちない。
まあ、いいや。奢ってもらえるし。
そんな浅はかなことを考えていると、店長が私の頭上を見ていることに気付いた。
「何見てるんですか…」
ちらりとその方向を見ると、男の胸が視界に映った。
真黒なTシャツ。
自然とさっきの煙草のパッケージを思い出す。
顔をあげると、そこにはあの男が無表情で佇んでいた。
「お前、知り合いか?」
店長が驚きながら私に聞いた。
それもそうだ。
一瞬、モデルかなんかかと思った。
「まあ、一応」
しどろもどろに答えると、男が私の腕をつかんだ。
ぱっとヤツの顔を見上げると、なぜだか見下ろされて不快になる。
「一応ってことないだろ。昨日の夜は…あんなに可愛かったのに」
その言葉を聞いて店長がすべてを悟ったように慌てて口を開いた。
「な、なんだお前。こんな男前なカレシいたんか!」
「や、あの。そうじゃなくて」
あくまで冷静に否定する。
そんな勘違い、冗談じゃない。
「いいんだよ、じゃあ料理はまた今度な!」
「店長、カレシじゃなくて…」
「なに照れてんだよ。俺、嬉しいよ。嫁にやる気分だけどな」
私の話を聞こうとしないで、にやにやと笑っている。
まずい、明日バイトに行ったらみんなに言われる。
「仲良くな!」
どうも上機嫌になった店長は、そう言ってすたすたとレジに行ってしまった。