Sin(私と彼の罪)
じゃあ、
「アンタは、誰?」
…何か不味いことでも聞いたのだろうか。
途端にヤツの表情が、まるで機械のように無機質なものになった。
居心地が悪くなって目をそらす。
なぜだかわからないけど、コイツの存在は私を乱す。
「…誰だろうね」
やっと口を開いたかと思えば、まるで私をからかう様な答え。
「アンタ、馬鹿にしてんの」
イラついた私はきつく男に食いついた。
なにもかもが、ズレている気がするんだ。
コイツと会ってから。
なにか、私は見落としてる。
それが何かわからない。
わからないから、苛つく。
「ゼン」
「は?」
「名前、ゼンだ。アンタじゃねえ」
どうも、アンタと呼ばれたことが気に食わなかったらしい。
嫌そうに私を見た。
漆黒のそれに、自然と目がいく。
「じゃあ、ゼン。ゼンは一体何者?」
気を取り直してそう聞くと、あっさり答えが返ってきた。
「んー。経営者?」
「え、なんの?」
「いろんな店舗の」
「へえ…」
なんだ、ちゃんと仕事してるんじゃない。
語尾についたクエスチョンが胡散臭いけど。
まあ、経営者なんてのも怪しいか。
「なんだと思ったんだ?」
「…ホストかモデルかと」
ぼそりとつぶやく。
だって本当に、最初はモデルかと思ったのだ。
彼が纏うオーラは、私が出会った人間の誰とも違う。
今ここに居るのだって、なんだか違和感がある。
「…馬鹿か」
ゼンはそう言って小さく笑った。