Sin(私と彼の罪)
「おい、煙草」
「は?」
「煙草くれ」
じーっとゼンを凝視する私を不快に思ったのだろう。
眉を潜めて私に命令が下る。
しょうがないじゃないか。
アンタみたいな綺麗な男、見たことないのだから。
「ふざけんな。自分の吸って」
なぜコイツに私の煙草を与えなくてはならない。
そんな義務は皆無よ。
「煙草」
ぶっきらぼうにそう言うが、私は動じない。
一向に動かない私に舌打ちをして、ゼンは立ち上がって灰皿と私の煙草を手にしてもどってきた。
「一本、千円」
不満をぼやくと鼻で笑われた。
「けち臭えな」
「金欠なの」
「そーかそーか」
慣れた手つきで口にくわえる姿を見て、あ、と思った。
いつだったろう。
あれは、元彼だっけな。
多分そうだ。
いつかも私の部屋でこんなふうに過ごしたことがあった。
なぜか私の定位置を陣取る男。
ソイツも煙草をふかして、私を見るのだった。
確か私、それがすごく好きで……
でも、変だな。
誰だったろう。
顔にもやが掛かるみたいに、その人のこと思い出せない。
ああ、これ完璧にアルツハイマーだな。
店長も強ち間違っていない。