Sin(私と彼の罪)
鍵を差し込むと、嫌な予感がした。
回しても感触がない。
慌てて鍵の掛かっていなかったドアを開けると、奥の扉からテレビの音が聞こえた。
大体すべての予想がついた私は、内側からドアに鍵をかけて、パンプスを脱ぐ。
「ゼン、いるんでしょ」
その言葉と同時に扉を開く。
私の視界に入ったのは、大きな黒い塊が、私のソファを占領している姿だった。
「…寝てるし」
近づいてみると、塊が上下にゆっくりと揺れているのがわかった。
一瞬、ヤツの高い鼻をつまんでやろうかと思ったけど、やめた。
逆凛に触れたら面倒だ。
こんなふうに、ゼンは私の家になぜかいることがある。
おおかた、うちにあるスペアキーを持っていったんだろうけど。
その図々しさは神がかりだ。
数日に一度、私の部屋に来て私の作った夕食を食べる様はまるで彼氏のよう。
でも、それだけ。
ヤマシイことは最初の一度しかしていない。
ただ食べて、テレビを見て、馬鹿みたいな話をして、帰る。
それだけ。
その間に私はゼンが不機嫌になると面倒なことや、あんまり笑わないことを発見した。
起きない彼を放っておいて、私はご飯を作りはじめた。
なかなかゼンがいつくるかわからないので、最近は毎日自分で作っている。
おかげでレパートリーも大分増えた。