Sin(私と彼の罪)
「シーノっ」
私を呼ぶ声に振り向くと、満面の笑みの店長がそこに立っていた。
意図的に嫌そうな顔をする。
「コンバンワ」
「こんばんわあ~」
ウッザ。
語尾にハートマークをべたべたとつけながら、店長は他のバイト達にも笑顔を振りまいていた。
「何、アレ」
同じ気持ちだったのか、殺しそうな目で睨むカナミに問いかける。
チッ
カナミさん。
舌打ちですか。
「女ができたみたいよ。なんでも年下の」
言われて、ん?と思う。
店長、年上好きじゃなかったか。
棚に商品を並べていたカナミに視線を送る。
その手に持ったラブストーリーの男役をみて、こんな絵に書いたような男はいない、と思った。
「男ってそーいうもんよね」
言い捨てたカナミはかなり悔しそうだった。
そういえばこの前の飲み会でも「店長より先に男つくる」って言ってたか。
「ね~」
なんて、嬉しそうな店長をぼけっと見ていると、目がばっちりと合ってしまった。
何故かにんまりと私に笑いかける店長。
やばい。こっち来る。
心底嫌そうな顔をしたカナミは、私を置いてスタスタとスタッフルームまで消えていってしまった。
取り残された私は、仕方なく店長様のお出ましを待つ。
「聞いた?カナミちゃんから」
「ええまあ。よかったですね」
確かに、このニヤけっぷりは殴りたい衝動に駆られる。
逃げたカナミに心の中で毒づいた。