Sin(私と彼の罪)
ぼんやりと空を見つめていた彼女の頬に手を当てる。
透き通った薄茶の瞳が、優しげに細められた。
俺を見て、彼女は何を思うのだろう。
自分の人生を狂わせた男をその目に宿して、何を見るのだ。
志乃。
「善」
「どうした…?」
「愛してる」
紡がれた言葉ほど、悲しいものはない。
「ああ、俺もだ………紫乃」
もう一度、深く深く、キスをした。
名残惜しかった。
彼女の全てが。
なにもかもが。
俺は袋から、白い錠剤を取り出した。
紫乃はこれから自分に起こることを理解したように、目を閉じた。
カーテンごしに朝の陽光が降り注ぐ。
照らされた紫乃の姿をみて、息を飲んだ。
美しかった。
日に透けたの髪が、きらきらと反射して。
その肌を照らす。
俺は自分の嗚咽を抑える。
そのまま錠剤を、用意していたミネラルウォーターと一緒に含むと、彼女の唇に手を触れた。
小さくひらいたそれに口付けをする。
「ん…」
勢いよく水と共に錠剤を彼女に流し込んだ。
赤い唇から、水が零れる。
間を置いて、コクリと喉が鳴ったのを見ると、俺は浅く息をついた。
ぐったりとした彼女の身体を支える。
その髪に、顔を埋めて存在を確かめた。
シノは、ここにいる。
ここに。
俺の腕のなかに。
………いる。