Sin(私と彼の罪)
俺は彼女の後頭部にキスをする。
細い腕が背中に絡みつく。
弱々しいそれは、微かに震えている。
かわいそうに。
怯えている。
闇に隠れた社会など、この女は見なくてもいいのだ。
あんな、汚くてどろどろとしたものを。
ヨコイにさえ気に入られなければ、こんな思いしなかっただろうに。
俺はまだ不安そうにする志乃に微笑む。
すると彼女もまた、小さな笑みを浮かべた。
守りたい。
強く、思った。
この潜入を期に、ヨコイの組織を崩せればいいのだが。
いや、せめてヨコイだけでもいい。
俺は、やらなきゃいけない。
そのためには、タキとヨージ。
この二人のどちらが裏切り者なのか。
そしてヨコイの情報を絞り出さなくては。
俺は志乃に惹かれていることを深く自覚した。
彼女の香りを深く吸い込むと、安心した。
―――この瞬間を、大切に思う。
…このとき俺は気が付いていなかった。
自分が、重大なミスを犯していることに。
このミスが、彼女の運命を狂わすとも知らずに。