Sin(私と彼の罪)
――……あれは、資産家の息子だっただろうか。
残暑の残る、じめじめした日だった。
月明かりがやけに明るくてげんなりしたのを覚えている。
2階の窓から軽やかに侵入する。
豪華な家だったが、セキュリティは下の下だった。
俺は注意深く部屋を見回し、足音をたてないように奥へ進む。
そこには自分と同い年位の青年が、暖かく柔らかそうなベッドで眠っていた。
艶やかで健康的な肌に似合わない、鉄の塊を向ける。
すると、気配に気付いたのか青年の目が薄く開いた。
俺は慌てずに、そばにあったクッションを彼の顔に押し付け左胸、目がけて発砲した。
小さく呻いたかと思えば、とたんに静かになる。
なんともいえない感触だった。
俺は部屋を適当に荒らし、強盗を装った。
この青年に、罪はない。
しかし命とは時に、理不尽に消されてしまうものだ。
本部に戻ると、満面の笑みを浮かべたスガヤがドアの前で待っていた。
てっきり感想を聞かれると思った俺は、無理矢理目をそらす。
しかしスガヤは満足そうな表情で「おかえり」と言っただけだった。
ただ、それだけ。
だから余計に俺は気分が悪くなる。
なにを言われたわけではないが、何も言われないのは逆に気味が悪い。
それだけじゃなく、スガヤが嬉しそうに笑っているのだ。
不気味なほど、嬉しそうに。
ぱっと踵を返して、彼の前を通り過ぎる。
生まれたときから、まっとうな道など外れてしまっている。
今日この日がなにかを分ける一日になったわけではない。
もう戻れないのは、変わらないのだから。