Sin(私と彼の罪)
「いらっしゃいませ」


店に入ると、まずは小部屋に通される。
そこで、店員に身元と会員証の提示を求められる。


顔見知りだとしても、入り口から入ってくれば客となる。


俺の顔を見た顔見知りの店員がはっとしたが、すぐに真顔に戻って「掲示をお願いします」と言った。



「ない」

「は?」

「だから、ない」


こいつにはなんの罪もないが。



店員の肩を両手で掴む。
そのまま引き寄せ膝蹴りを食らわした。


情けない声をだして蹲る。



「わりぃな」



咳き込み苦しむ店員を一瞥し、奥の部屋に向かう。


重い両開きの扉を開ければ、見慣れた職場となる。

誰も俺になど目もくれない。

自分自身の利益だけ考え、食い入るように話しこんでいる。



ヨコイの姿はすぐに見つけられた。


今回はお目当ての志乃がいないせいか、カウンターではなくテーブルを数人で囲んでいる。


それを一瞬で頭に刻み、一番出口に近いテーブルについた。




右の一番奥に、ヨージがいる。
馬鹿みたいにへらりとした顔で、店員の女を口説いている。

緊張感のないやつだ。

店にはヨコイがいるというのに。



そして左側のカウンターにはタキの姿があった。
バーテンの格好が様になっている。


この任務が終わったら笑ってやろう。


まあ、無事だったらの話だが。






先ほどの光景を思い出す。



ヨコイの他には男が三人。
俺の座った席の、すぐ左後ろのテーブルだ。

どれも黒いスーツを着て、ぎらついた目をしている。

これは手強そうだ。



だが怖じ気ずいている暇などない。





短く息をつく。





ヨージかタキが彼らの味方ならば、俺達組織のことは既に知っていることだろう。

ここに潜入している俺達のことも、把握している。




ヨコイは既に俺の存在に気付いているはずだ。




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