Sin(私と彼の罪)
ヨコイを仕留める気などさらさらない。
そんなことをしたら、スガヤの機嫌を損ねるだけだ。
「娯楽がなくなった」そう言ってスガヤは俺を咎めるだろう。
それに組織のトップを手に掛ければ俺だってただじゃすまされない。
男はヨコイと共に、棚の陰に隠れた。
応援を待つつもりだろう。
そっちはタキに任せて、俺はひとりの男の前に立つ。
こんなイレギュラーが起これば、頭の悪いお前など身動きもとれなくなるだろう。
ヨコイもただのバカ野郎だ。
スガヤの組織に属しているというだけで、全てのメンバーの能力が平等だとでも思ったのだろうか。
明らかに、この男………
ヨージは、お前の達の疫病神ではないか。
「逃がすとでも思ったのかよ。この俺が」
テーブルの後ろに隠れているヨージに問い掛ける。
顔を伏せて、その表情は見えない。
辺りは酒のグラスやらビンが放り出され、歩くたびにその破片が音を出した。
俺はヨージに銃口を向ける。
「…なんとか言え」
「………」
気味が、悪い。
いつもはへらへらしているヨージが、静かだなんて。
ピストルを持つ手が汗で滲む。
ヨージは顔を伏せていてその表情は見えない。
人にこいつを向けるときは、心地よい緊張感が付き物だが。
今のそれは、全く異なるものだった。
「タキ!こいつ連れてさっさと引くぞ」
タキはすぐ近くで俺達のことを見ていた。
思い出したように「ああ」と言って、やっと動き出す。
きっとこの辺は既にヨコイの組織の連中で固められているだろう。
長居は禁物。
俺達は何も言わないヨージを連れて店を出た。
出るときにヨコイの部下が何人でてきたが、適当に黙らせた。