Sin(私と彼の罪)
用意しておいた車に乗り込んで、やっと一息をついた。
後部座席に俺とヨージが乗り、運転はタキに任せた。
車が走り出すと、俺はヨージに向き直った。
「お前が何をしようが、俺にとっちゃ関係ない」
「……」
ガンッ
車が揺れる。
俺がヨージの顎を抑えつけたからだ。
窓ガラスに打ちつけられたヤツは、苦しそうに息をしている。
「だがな、俺の手を煩わすようなことは、許さねえ」
そう吐き捨てて、俺は手の力を強めた。
「大人しくしてろよ」
「わりい」
タキはなんでもないように俺を咎める。
もちろん、俺はヤツを抑えたままだ。
「なあ、ヨージ。お前は組織を騙せるとでも思ったのか?」
「……」
「お前ほどの力量じゃ、たとえそれができても長続きなんてしない。自分がどうなるかなんて、わかっていただろう?」
なんと言っても、ヨージは俺の目を見ようとしない。
いらだった俺は無理やりヤツに顔を近づけた。
「おい、どうなんだよ。お前は自分の力量も判断できないほど馬鹿だったのか?」
俺がそう言うと、ヨージは鼻で笑った。
「…?」
奴の頭が動いて、長い前髪が揺れる。
うつむいたまま、ヨージは口を開いた。
「…わかんないっすよ……あんたには」
「ああ?」
ぼそぼそ、と。
聞いたことのない、低く、細い声だった。
「わかってもらっちゃあ、困りますけどね」
「…何が言いたい」
理解できない。
俺は奴の言葉を漏らさないように、注意深く耳を傾けた。
しかし、それ以上ヨージは喋らなかった。