Sin(私と彼の罪)
本部に戻り、スガヤにヨージを引き渡すと、ヤツはにやりと笑った。
嫌な予感がする。
「なあ」
「…んだよ」
内心ははやくこの部屋から出たかった。
今のヨージを見ているのは非常に不快だった。
あの、俺がピストルを最初に放ったときに身動き一つ取れなくなったのがヨージだった。
スガヤの組織のメンバーならば、あの場で俺を援護するはずなのに、だ。
その上みじめに隠れようとするなど、臆病者のやること。
よくもこの男にスガヤを裏切る勇気があったものだ。
裏切りに対する怒りなど感じてはいない。
ただもうこの男はいらないと、ただそう思った。
「なあ、善さん」
「…」
「あの子…なんて言ったっけ?……色白の」
俺は本能に任せてヨージを殴り飛ばした。
激しい音を立てて、壁に叩きつけられたヨージはせき込む。
「…てめぇ何した」
自分のものとは思えないほど、低い声。
俺のそんな様子に気分を良くしたのか、ヨージは乾いた声で笑う。
「別に、なんもしてないっすよ。彼女には、ね」
「ふざけてんじゃねえ!何した!!」
「さあね…はやく行ってあげたらいいんじゃないの?」
ヨージは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「…これから、死んじゃうかもよ」
俺はもう一度ヨージを殴る。
すでに顔面は血でどろどろだった。
「タキ、スガヤ。俺ちょっと出てくる」
「どこに行くんだ」
すばやくスガヤに止められる。
俺は構わなかった。
今は、志乃が第一なんだ。
「いいだろ、どこでも」
「あの女のところだろう?」
「なんで…」
すべてお見通しってとこかよ。
まあ、スガヤなら当然ってとこか。
実年齢よりもはるかに若く見えるスガヤ。
その若々しい唇が、孤を描く。
「気をつけろよ」
嫌に機嫌がいい。
スガヤの機嫌がいいときにいいことは起こったためしがない。
俺は彼らに背を向けて走り出した。
とても、嫌な予感がした。