君がいる街
時々、コイツが基哉を見る視線の中に憂いめいた、なんか言葉に言い表せないようなものがあるのを、感じてはいたけれど。
こんなにはっきりと目にしたのは、初めてで。
「け、い・・・・?」
戸惑いがちに、彼女の名前を呼ぶ。すると、はっとした様な圭が俺を見た。
そして、あははー。と何時もの様に、子供っぽい笑顔で笑う。
無理、なんかしなくてもいいのに。
完全に、圭の気持ちを理解した訳ではないけれど。俺の前だけでは、その張り付けた様な笑顔は、無意味だと。
気づいて、ほしくて。
「あのさ。その手帳、基哉んトコ持っていってくんない?」
「へ?」
「ソレがないと、ヤツも困るだろうし。」
な?と笑って促せば、圭が困った様に笑う。
手帳を持っている圭の手が、ほんの少し震えていたことは。
気づかない、ことにした。