たとえ世界を敵に回しても◇第一部◆
薄暗い小道へと身を寄せる。
すでに体力の限界は超えていた。
まるで耳から心臓が生えたように、心臓が大きく脈打つのが間近で聞こえる。
大きく息を吸ったり吐いたりは出来ないから、呼吸は落ち着くどころかますます苦しくなっていくばかりだ。足音がどんどん近付いて来る。
(どうか、気付かないで)
祈るように目を瞑る。
ぎゅっと胸の前であわせた手は、蒼白の肌に爪が食い込んでいた。
緊張が極限に昂る中、じゃり、と砂を食む音が聞こえた。
近付く足音とは反対の、自分がいるすぐ後方から。
弾かれたように後方へ足を踏み足し、同時に懐剣を鞘から抜く。
(あと少しだ。連中がこのままわたしに気付かずに通り過ぎたら、わたしは助かるのに―!)
そんなものは永遠じゃなく、所詮一時しのぎにしかならないことは重々承知している。
それでも。
たとえ、わずかな間でも。
この命を無駄にすることはできない。
たくさんの犠牲の上に成り立った命だ。
こんなところで死ぬなんて、みなに顔向けできない。
後方からの突然の侵入者は、暗くて顔がよく判別できない。
ただ連中独特の、黒づくめの衣装を着てないことだけはわかる。
なにせ相手は目に映えるような白色の単衣を着ていたのだから。