ピーちゃんと私
 そこでビデオテープは終わっていた。
「メソメソすんな、泣いて世界が変わるかよ」
 後に母に聞いた話によるとこれは祖父の言葉らしかった。
 寝たきりの祖父を看病していた祖母がどうしても耐え切れず、一度だけ涙を見せてしまった時があって、その時に祖父が言ってくれた言葉。結果的にこれが祖父の最後の言葉だった。もしかしたら祖母はこの言葉を繰り返し口に出して自分を勇気づけていたのかもしれない。それを聞いていたピーちゃんが言葉を覚えてしまうぐらいに。
 母はもうこの言葉を忘れているかもしれない。いや、それはないかなと思いつつも確かめたくなって携帯電話を開いたが、やっぱりやめた。来週からは沖縄の実家で母と一緒に暮らすのだから思い出話はいくらでもできる。
 私はビデオテープをダンボール箱にしまってから、バファリンが鞄の中に入っていることを確認した。そして、よしっ、と一声気合いを入れて引越しの作業を再開した。


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