Ne soyez pas desespere

「それで、えーっと、そこの背が高い方のキミ、昨日コンサート来てくれたなら、覚えてるよね?」


「え?」


一瞬真剣そうな顔になり、そしてまたへにゃん、と効果音がつきそうなぐらい笑顔になって、彼女は言った。


「Ne soyez pas desespere!諦めちゃだめだよー!」


ヌ・ソワユ・パ・ドゥゼスパ。言われた言葉を心の中で繰り返す。


「…それじゃ、あたしはまた彼氏に会いに行ってきます!祐、帰るのは夜遅くになると思うから裕のお母さんには上手くごまかしといてねー!」


ぱたぱた、と音を立てて彼女はまた玄関に向かって走っていった。


「全くもう……」


「おい、祐、あの人が従姉って、教えてくれても良かったのに!」


「…そうだぞ!有名なピアニストじゃないか!」


「ははは…でもイメージ違うだろ?あの人は普通にしてたらピアニストなんて分かんないよ」


違う、と言うか何というか。


……しっかりしているイメージだったけど、意外に人間らしさがあるって言うか…まぁ人間だからそうなんだけど……。


「いやいや、でも一途じゃん。朝もデートしてきて、それでまたその彼氏のためにここから坂道でいくんだから」

 
「そうだよなぁ…あの坂道をいくら彼氏のためとはいえ、何回も往復なんてできないだろ…」


それを聞いて裕は、


「一途ぅー?!」


とおかしそうに笑い出した。


「祐、どうしたんだよ、一途じゃん!瑠璃さんって」


「いやいや、総、陵。それは無いって。朝の彼氏とこれからの彼氏は違う人だよ、絶対。それに、近くの公園に彼氏に迎えに来させてるぞ?」



「「は??」」



「いやもう、なんつーか、ピアノと男にしか興味無いみたいな人だぞ?」


え……?!
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