紅ノ刹那
シャラ、シャラ、シャラ、
砂夜が一歩踏み出すごとに、
鎖が音を立てる。
そろそろ、日も暮れてきたし
沈黙の行の範囲を過ぎただろうか……
そう思った緋焔は、後ろを振り返った。
気配を感じ、顔を上げた砂夜と視線が交わる。
「今日はこの辺で野宿だ」
「はい」
「…………」
相手が女人である以上、
何かしらの文句があるだろうと考えていた緋焔は拍子抜けした。
しかも、その間にも砂夜は
近くに落ちている樹の枝を拾い集め、薪にしようとしている。
我に返った緋焔も、それを手伝った。
パチパチと、薪のはぜる音が
シンとした空間に響く。
結局、薪集めも火付けも、砂夜が行った。
緋焔は野宿の経験はあったが、その様な事は全て醒燕に任せきりだったのだ。
何をしていいかわからない緋焔に、砂夜はただ、
鎖を持っていなければいけないのだから、何もしなくていい、
と告げたのだ。
その後、砂夜は驚くべき速さで薪を集めきり、それに火をつけ、緋焔が醒燕に持たされた食料を調理し、
今に至るのだ。
そんな事もあり、
砂夜が作業している間、
気遣われた事がくやしかった緋焔は彼女の手元をかつて無いほどに集中して見つめていた。
今、緋焔の目の前には
肉の焼ける香ばしい香りが漂い、美味しそうなフルーツが並んでいる。
ゴクリと、緋焔は唾を呑み込んだ。
「焼けたようです」
砂夜の声が聞こえるやいなや、緋焔が肉にかじりつく。
熱さに顔をしかめ、舌の上で忙しなく転がしつつ、それを咀嚼し飲み込むと、緋焔は瞬く間に笑顔になった。
「うまい!!
………なんだ?」
褒められたというのに
驚いたように緋焔を見つめる砂夜に、少し訝しげな眼差しをおくる。
砂夜は少し沈黙し、答えた。
「いえ……
少し、意外だっただけです」
「意外?
なにがだよ?」
「あまりに、普通に召し上がられたので……
……毒が入っているとは、思わないのですか?」
「……考えてなかったな
まぁ、生きてるし、いいだろ」
「そうですか……」
再び、二人の間に
沈黙が訪れた。