紅ノ刹那
静寂
爽やかな、夏の空の下
一人の青年が、樹にもたれ昼寝をしていた。
青年は心地よさげに寝息をたてている。
そんな彼の邪魔をするものが、一人―――
「緋焔、おい、起きろよ」
「…………」
「緋焔!!」
「うわっ!!
……ってなんだ…醒燕か…」
やっとの事で目を開けた青年。
琥珀色の瞳は眠たげに細められ、艶やかな黒髪には葉がついている。
それに呆れた目を向けたのは
同い年位であろう、
同じ黒髪に、こちらは灰色の瞳の青年、醒燕だ。
「なんだとはなんだ。
俺が折角起こしてやったのに。
王が呼んでるぞ。
話があるってな。」
その言葉に、緋焔は盛大に顔をしかめた。
「親父が?
何だっていうんだ、全く…」
王の息子、即ち王太子である緋焔には、するべき事がたくさんある。
今日も政務から逃げて昼寝をしていた手前、その説教だろうか。
(やれやれ。
誰も好き好んで王子になったわけじゃないんだがなぁ……)
仕方なく緋焔は、親友であり護衛でもある醒燕と共に、
重い腰をあげ、王の元へ向かった。