紅ノ刹那


足を踏み入れた――無理矢理踏み入れさせられたとも言う――教会内は、
シンとした静謐な空気が漂っていた。


真っ直ぐ正面を見ると、祭壇の上に
司教であろう、穏やかな顔つきの初老の男と、
頭から足まで、体全てをマントで覆われた人物が立っていた。



「へぇー。
なかなかソレっぽい死刑囚サンだな」


後から入ってきた醒燕が、面白そうに緋焔に囁く。


なるほど確かに、その人物のマントの袖口からは
手枷であろう、白銀の鎖が垂れていた。



司祭が緋焔達の方を向き、頭を垂れる。


「お待ちしておりました、王太子殿下。
私は、ここで最高司祭を勤めさせていただいている者です」


緋焔は彼等に、意を決して近づいた。


「俺が緋焔だ。
それで、そこの者が…?」


司祭は心得たように頷く。

そして、緋焔の掌に一つの鍵を乗せた。


「これは?」


「この者の手枷の鍵でございます」


そう言って、死刑囚を見る。


「あなた様が、必要と考えたとき、枷を外してやって下さい。
勿論、最後の時まで外さずとも問題ございません」


緋焔はその言葉に内心首を傾げたが、とりあえず頷き、鍵を握りしめた。


司祭はそれにニッコリと笑うと、もう一度頭を下げた。


「あなた様の旅路に幸多からんことを。
どうか、この方をよろしくお願い致します」



(……ん?)


緋焔はその言葉に違和感を覚えた。
その言い方だと、まるで――




シャラリ


だが、緋焔の思考はそこで打ち消された。


死刑囚が動いたことで鎖が音を立て、つい緋焔はそちらに注意を向けてしまったのである。

それを、緋焔は一生後悔する事になる。



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