-Super Natural-
#1. -記憶-
ふと、目が覚めた。
「…」
重い体をゆっくりと起こし、周囲を見渡した。
目に写ったのは、真っ白だったと思われる壁や床、天井に飛び散った、おびただしい量の血と、床を埋め尽くすほどの死体の数々。
「…」
どうしてこんなことになっているのか。
なぜこれほど大人数の人たちが死んでいるのか。
なんで自分も大量の血を浴びているのか。
そもそも、ここはどこなのか。
見たことのない、初めて見る部屋に、たった一人で…。
…。
………。
……………。
なんで私は、私が誰なのかもわかんないの?
なんで私は…
「………なんで、何も覚えてないの…?」
そう呟いた瞬間、部屋の扉が勢い良く開いた。
「…!?」
驚くことしかできない私は、恐怖に身を固くした。
部屋に入ってきた白衣の男は、私の姿を見るなり、歩み寄ってきて、言った。
「よく目覚めてくれた、カレン!」
「カレ、ン…?
それが、私の名前なの…?」
男は、私のことを“カレン”と呼んだ。
でも、そんなことも覚えてない。
初めて聞いた名前で、初めて呼ばれた名前だった。
私が男に尋ねると、男は、酷く落胆したようだった。
「なんてことだ…
まさか、記憶がなくなっているなんて…」
頭を抱え、何やら独り言を言い出す。
「最後にあれを投与する前までは、きちんと記憶があったのだ。
ならば、その投与時か、または実験中か、はたまた実験後か…
何にせよ、データは取らなければなるまい…
ならば早急に準備をせねば…」
そう言って部屋を出ていこうとする男を、私は腕を掴んで引き留めた。
「ねぇ、どうして私は記憶がないの?
なんで私はこんなところにいるのよ…
私に一体、何をしたのよ…!」
まるですがるように尋ねるが、男は素っ気なく返してきた。
「説明はあとだ。
先にデータの収集を行わなければならない。
君は大人しく、モルモットになっていればいいのだ、カレン」
その瞬間に、何かが、私の中で吹っ切れた。