月の恋人
「……涼?…いるの?」
一応ノックをしてみるが、返事はない。
さっき聴こえた微かな音色は、やっぱり涼の部屋から漏れてきていた。
(……なんだっけ、この曲……)
平原を渡る風のような
悠久な川の流れのような……静かな、音楽。
曲名も作曲家の名前も思い出せないけど
確かなのは………………
(………クラシック??)
涼、クラシックなんか聴く趣味あったっけ?
しばらくそこに立って美しい調べに耳を傾けていたけど、一向に返事がないので、ドアをそおっと開けて中を窺ってみた。
「………涼?」