月の恋人


涼の部屋は、雑誌や野球のグラブや教科書などが床に散らばっていて、なんだかごちゃごちゃしている。
今に始まったことじゃないけれど。



「涼?いるの?…入るよー。」


そっと足を踏み入れると、男の子の匂いがした。

汗臭いとか、そんなんじゃなくて…

太陽と、土と、風と、埃の匂い。


なのに
この部屋の匂いにはそぐわない
優雅な美しいワルツが、奥の方から微かに響いている。



(………?)


「りょう〜?」





涼の部屋はちょっと変わってて、L字型になっていて、入ってすぐは奥の方まで見えないのだ。


音は、その曲がった先から聴こえてくる。



「…り………」

ょう、と呼ぼうとしたが、口が動くより先に、目が涼の姿を捉えてしまった。



床に、横たわる涼。




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