月の恋人



途端に、ドス黒い感情が俺を支配し始めた。



「……なんでだよ…」





ずっと
イジメっ子から守ってきたのも

ずっと
陽菜の隣にいたのも


俺じゃないか。


なのになんで
翔の名前を呼ぶんだよ



この、白い小さな身体は俺のものだ。

翔(アイツ)なんかに横から掻っ攫われて、たまるか。




怒りなのか悲しみなのか、この感情を何と呼ぶか、知らない。



けど


一度噴き出した激流は、もう俺の手を止めてくれなかった。



「……陽菜……」



震える手で頬を包みこんで


――…俺を、見てよ…


祈るような気持ちで

……………キスを、した。










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