月の恋人
「…………翔、くん……」
あたしの声だけが
その空間で
やけに浮いて 聴こえた。
自分が、ひどく場違いな気がした。
翔くんがこっちを見て
一瞬、大きく目を見張る。
「………………陽菜ちゃん?」
その一瞬の隙に
翔くんに手を掴まれていた彼女は
その場から逃げるように、去って行った。
「………あっ、ちょっ……」
バタン、と
虚しく、扉の閉まる音だけが響く。
その暗い地下には
翔くん
あたしを連れ込んだ大男
さっきから一言も喋らない、モジャモジャの髪をした不気味な男
おじいさん
そして… あたしの5人が残された。