月の恋人
「それよりお前……アレ。鹿島さん、追い掛けねーの?ヤバくね?」
大男の言葉に
ドキン、と心臓が跳ねた。
“追い掛ける”
“鹿島さん”
さっきの……女の人。
翔くんの、彼女……?
「………………あ、うん。そう、だな…」
チラ、と翔くんがあたしを見た。
――――…行かないで。
咄嗟に、そう思った。
「…陽菜ちゃん、ごめん、ちょっと待っててくれる?」
「………え…」
「すぐ戻るから。話はそれからしよ。」
――…いやだ。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。
あたしの中で
駄々っ子みたいに
イヤダ、を繰り返す自分がいる。
翔くんを
追い掛けて
追い掛けて
やっと辿り着けたのに。
また、何処かへ行ってしまうんだね。
しかも………彼女に会いに。
目の前が
急に真っ暗になった気がした。