月の恋人



―――…行かないで



その
あたしの訴えは形を成さず

翔くんは出てってしまった。



私の頭に、ポンと手を置いて「ごめんね」と言いながら。




扉の閉まる音の後に
再び訪れる静寂。





――…“鹿島さん”、だっけ…



ストレートの黒髪が印象的な、大人っぽい美人だった。

高校生くらいかな…?




あんな彼女がいたんじゃ

あたしなんか
翔くんの目に
どれだけ子供っぽく写ってたんだろう。




―――――…敵わない。


そんな風に思ってしまう自分が、悲しかった。




―――――…怖い。


次々に見えてきた
翔くんのプライベートが。

この先、明らかにされる事実に、あたしは耐えられるの?


泣いて嫌がっていた彼女を追い掛けるくらい、彼女の事が好きなの?


あんなに必死な翔くんの顔は、初めて見たよ。




―――…もう、いいよ。



あたしは、なんて
意気地が無いんだろう。



ここに来るまでは、翔くんの事、もっと知りたいって思ってたのに

いざ、現実のかけらを前にしたら


足が、竦んでしまった。









< 181 / 451 >

この作品をシェア

pagetop