月の恋人
「しょーがねーなー…ったく…どーせ、またキツい事言ったんだろ。」
閉まった扉を見やって、大男が呆れたような声で言った。
「…あいつ、相当惚れ込んでたのにな、鹿島さん。…今回も、ダメだったか………」
モジャモジャ頭の男が、初めて口を開いた。
意外な程、若い声だった。
「そーいや、そーだよな。鹿島さんを初めてみた時のアイツの顔ってば……」
――――――…やめて。
もう、……聞きたくない。
翔くんが
他の女の子に夢中になってるのは、もう分かったから……
「ああ、“やっと見付けた!”的な?」
「そー!そー!珍しく、超興奮しててさー……」
―――――――…嫌、だ
「あれからしばらく、寝ても覚めても鹿島さんの話題だったもんな…」
――――――…聞きたくない!!!
「………あたし、帰り、ます…」
蚊の鳴くような声でそう告げて
「………………………え?」
二人が盛り上がっている隙に
あたしは、そこから逃げ出した。