月の恋人


……



あたしは、とにかく自分のことで頭がいっぱいで

だんだん、周りの風景が暗く荒んでいくのに、気付かなかった。


………忘れていたんだ。



そこが

“危険な地域”だという事を――…




夢中で走っていた私の横から

突然、強い力が働いた。


「きゃ……っ…」

バランスを崩して、転びそうになる。





―――…なに!?


クチャクチャとガムを噛む音が
耳元でやけに大きく響く。



見ると、
黒い肌の外人が、ニヤニヤしながらあたしの腕を掴んでいた。



―――…あ




『…最近、駅裏では麻薬や覚せい剤を売る外国人が多くなっています。皆さん、くれぐれも近寄らないように……』


って、
終業式で
校長先生が言ってたっけ――…



って、
マズイ、呑気に思い出してる場合じゃない……







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