月の恋人
「……………あ……」
――…初めて知った。
人間、ほんとの恐怖を感じると、声なんか出ないんだ。
“助けて”と叫べばいいのに。
あたしの喉は息を吐くばかりで、声が出てこなかった。
「アナタ、カワイイね。キモチイイの、アルよ。コレ、ヤル?」
目の前にちらつく白い錠剤。
―――…初めて見た。
これ、ホンモノの、クスリだ……
「………っ………」
――…怖い
ただ、首を振るしかできなかった。
「イラナイ?コッチも、アルよ。」
男のポケットからは、次々と違う色の錠剤が出てきた。
腕に食い込む男の力が段々強くなってくる。
いつの間にか
男との距離は縮まっていた。
目は血走り
荒い呼吸が、顔にかかる。
―――助けて……!!!
あたしの全身が
危険信号を鳴らしていた。
「……い、らない…離して…」
―――声を出せ。
―――声を出すんだ、あたし!!