月の恋人
目の前を風が横切って
あたしの視界から
男が消えた。
「………!!………!!!!」
地面に倒された男が、何語か判らない言葉で叫んでいる。
それを遮るようにして
涼が、男に何かを言い放つ。
「…………」
途端に様子が変わり、慌てて走り去る男。
………嵐のような、一瞬の出来事だった。
―――… どうして?
「……陽菜…大丈夫か?」
「……………っ…」
―――…涼だ。
―――…涼が、目の前にいる。
「……ったく、なんでこんなとこ……」
壁にもたれるようにして座り込んでしまったあたしに、涼が近づいてくる。
「……陽………」
視線を合わせた涼の目が、大きく開かれる。
―――笑っちゃうくらいに
あたしの身体は、震えて、いた。