月の恋人



「……あ………」



涙――…?


物心ついてから、一度も見たことがなかった涼の泣き顔は、相当の衝撃をあたしに与えた。




「な…んで……どうしたの……」


「ふざけんなよ…」



――…それは、あたしに向かって言ってるの?



困惑して涼の瞳を見つめるけれど
あたしは、そこにどんな色も見出すことはできなかった。



「…………ふざけてなんか、ないよ。」


あたしは、
あなたよりちっちゃいし弱い存在だけど


だけど、れっきとした、あなたの姉だよ。


何か、言いたいことがあるなら

何か、心に悩みを抱えているのなら

ちゃんと、言って欲しいよ。



ねぇ、どうして、泣いてるの?




「最近、ずっと、変だよ、涼。」


「……………」


「翔くんと、喧嘩でも、したの?」


「……………」


何も答えない代わりに
視線だけは、一時も逸らさずにあたしを刺す。



言葉にならない、何かが、そこにはあるんだね。

否定しない、ってことは
肯定、と捉えていいんだよね。

……何かが、あったんだね。






< 222 / 451 >

この作品をシェア

pagetop