月の恋人
「……あ………」
涙――…?
物心ついてから、一度も見たことがなかった涼の泣き顔は、相当の衝撃をあたしに与えた。
「な…んで……どうしたの……」
「ふざけんなよ…」
――…それは、あたしに向かって言ってるの?
困惑して涼の瞳を見つめるけれど
あたしは、そこにどんな色も見出すことはできなかった。
「…………ふざけてなんか、ないよ。」
あたしは、
あなたよりちっちゃいし弱い存在だけど
だけど、れっきとした、あなたの姉だよ。
何か、言いたいことがあるなら
何か、心に悩みを抱えているのなら
ちゃんと、言って欲しいよ。
ねぇ、どうして、泣いてるの?
「最近、ずっと、変だよ、涼。」
「……………」
「翔くんと、喧嘩でも、したの?」
「……………」
何も答えない代わりに
視線だけは、一時も逸らさずにあたしを刺す。
言葉にならない、何かが、そこにはあるんだね。
否定しない、ってことは
肯定、と捉えていいんだよね。
……何かが、あったんだね。