月の恋人




重い球を転がすようなゴロゴロ、という音で我に返ったのは、夕方5時を過ぎた頃。


お昼間はあんなに良い天気だったのに、今や空には不気味な黒雲が立ち込めていた。


遠くで、ズズン、と鈍い音がしている。

雲と雲の、ぶつかる音。






――… 何か…考えなくちゃ。




気ばかり焦って
思考がまとまらない。


そもそも、まともに理解しようとする事自体、無謀なんだ。




『いいかげん、“弟”もウンザリ』




力まかせに引っ張られた頬は、まだ微かな痛みを残していた。





「いたいよ… バカ……」


声に出して呟いたら
合わせた唇に
涼のキスが甦って、涙が出た。





どうして―…

こんなに、せつない思いをさせるの?





『陽菜が、好きだ』



あたしだって好きだ。愛してる。

たったひとりの弟だもの。

いつも、そばにいて、守ってくれた―…あたしの涼だもの。



けど。


その“好き”と
涼の言った“好き”は

同じ―…“好き”では、ない…んだ。





振り絞るようにして、涼の口から出た想いは

あたしの耳元から、全身に染み込んで余すところなく行き渡り、あたしを支配する。




あたしは、正しく理解せざるを得なかった。


誤解の余地すらない

涼の、“好き”を――…











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