月の恋人
『陽菜ちゃん家は、にぎやかでいいなぁ』
『変わらないね』
そう言った翔くんの、笑顔に注した影。
飴色に染まった、あの空間――…
大男に、モジャモジャ髪の男。
モデルのような出で立ちの鹿島さん。
老人の煎れてくれた深いコーヒーの匂いが、鼻によみがえった。
翔くんについて
あたしが持ってるピースは、たったこれだけだ。
そして――…
あの、強引な、キス。
これで、何が分かるのか―…
答えは明らかで。
“つまり、何もわからない”
これが、現状で出せる、最適な答えだった。
だけど。 ―――だから。
あたしが、動かなきゃ。
あたしが、探さなきゃ。
“あたしにしか 見つけられない”んだから。
理由なんて、ない。
だって、本能みたいなもので、そう感じるんだもの。
そして―…“涼も、帰ってこない”
そんな気がして、ならないんだ。
いま、あたしが行かなきゃ。
―――… 崩壊してしまう
何が、かは、分からない。
全てが曖昧で、漠然としていて――…
だから、不安なんだ。