月の恋人
◆
…あたしにしては、ずいぶん、思い切ったことをしてしまった。
バスに飛び乗って、お財布の中身を確認した時に、初めて不安になった。
いったい、自分のどこに
こんなパワーがあったんだろう。
たいしたお金も持たずに
翔くんの行方に確証がある訳でなく
しかも、この嵐の中
よく、家を飛び出したものだ。
自分で感心してしまう。
涼は、電話をしても、メールをしても、一切、反応がなかった。
あたしも、正直、どうしていいか、わからなかった。
『陽菜が、好きだ』
泣きながらそう言った、涼に…
何を、言えばいいの?
正解が見つからなかった。
だれか、答えを教えてほしい。
『この方程式を使って解けば簡単だよ』って
だれか、言ってほしい。
テストでいい点が取れたって
現実に、絡まった糸をうまく解けないのなら
そこに、なんの意味があるというのだろう。
冷たい窓に顔をくっつける。
外は、もう真っ暗だ。
横から激しく打ち付ける雨音が、耳から脳内を浸食していくような気がした。