月の恋人
―――――…
フランク・シナトラの この曲を
あたしは、昔から何度も家で聴いていた。
音大を出たママが、結婚式で独唱したという、マイウェイ。
パパとママの、大切な思い出の曲――…
……………
And now, the end is here, And so I face the final curtain…
タケルさんは、お世辞抜きで、上手だった。
ジャズを、ずっとやっていたのかな。
こんな風にピアノの傍らで歌うのなんて久しぶりだけど、音もリズムも、すごく気持ちがいい。
ふわり、 声が 音に乗る。
波間を漂うような浮遊感が心地よくて、目を閉じた。
……………
And more, much more than this, I did it my way…
空間に、音が吸い込まれていく。
最後の一音が闇に消えた瞬間――…
「…… 帰したく、なくなるな…」
タケルさんに引き寄せられて
「タ、ケル、さん…?」
瞼を開けたら
あたしの身体は
彼の―…膝の上に、あった。