月の恋人
――――――…
これは、どういう状況でしょうか。
いつの間にか腰に手を回されている。
「俺の耳に、狂いはなかった。」
「あのっ…… 」
あたしの身体は
タケルさんの手ひとつで支えられて
危ういバランスを保っている状態で
ともすれば転げ落ちてしまいそうな不安定な姿勢で、吸い込まれそうな瞳に魅入られて
あたしは、まったく身動きが取れなかった。
「陽菜、ちゃん… 」
「…………っ」
タケルさんの冷たい指先が、喉に触れた瞬間
身体中に電気が走ったような感覚に襲われた。
息が、首筋にかかるくらいの距離で囁かれる
「ずっと……俺の隣で、歌ってくれない?」
「………… やっ…」
くすぐったさに思わず身を捩った、その時――…
――――――…「ストップ」
張りのある声と共に
パチン、と音を響かせて
部屋が突然明るくなった。
眩い(マバユイ)白い光に照らされて
思わず細めたあたしの目に
飛び込んできたのは―――…
「…… 懲りない奴だな、ったく」
髪をボサボサにして
疲れきった様子の
「………… 翔くんっっっ!!!」
間違いなく、翔くん、だった。