月の恋人
思えば、桜木の本家で
陽菜ちゃんや涼と一緒に暮らしていた時が、一番幸せだったのかもしれない。
誰も、俺に期待しない。
自分が、ただ“自分”というだけでいられた、あの時間。
それは、なんて貴重な時間だったのか。
―…“ずっと、一緒にいたい”
田舎に家を建てて、本家と離れてからは
その欲求はさらに強くなっていった。
家には、俺の孤独を埋めてくれる人が
誰もいなかったから。
半年に一度の旅行の時だけ、
自分は普通の子供で。
陽菜ちゃんと、涼と、3人兄弟みたいな気がしてた。
ひたすら素直について来る涼が、可愛かったし
陽菜ちゃんの笑顔を見ると
胸の奥がほっこり温かくなって
自分がスッと楽になる気がした。