月の恋人
当時から、タケルには有無を言わせない強引さがあった。
だけどなんだか憎めない奴で。
結局、何でもあいつのペースで物事が進んでいった。
3つも年が離れているのに、俺たちはいつだって同じ目線で対等に付き合うことができた。
お互いの能力を、認め合っていたからかもしれない。
タケルと俺はとにかく何もかもが正反対で。
両親とも音楽家のサラブレットのくせに、信じられないほどアウトサイダーだった。
「化石のような音楽に興味はない。」
中学生とは思えないセリフを最後に、早々にクラシックに見切りをつけて教室をやめてしまった。
『翔、一緒にバンドやんない?』
意味の分からない誘い文句でタケルに引きずりこまれたのは、そう前の話じゃない。
『…… なに言ってんだお前、頭おかしーんじゃねーの?』
『いや、すごぶるマトモ。』
『“化石のような音楽に興味ない”んじゃなかったのかよ。』
ロックだって、ポップスだって、先人たちが築いてきた過去の遺物だ。
学校の軽音楽部だって、そんなののコピーバンドなら沢山あった。
彼らをバカにするつもりなんて毛頭ない。ビートルズは素晴らしい。
けど、自分がそれをやるなんて、想像もできなかった。
『んー?ないよ?』
『んじゃ、なんで今更バンドなんだよ。』
『だから。全く新しい音楽を、俺と翔で、創ろうぜって言ってんの。』
『……………… は?』
それは、目も眩むような、甘美な誘い文句で
言われた瞬間、俺は 最高に間抜けな面をしていたに違いない。