月の恋人
「お前はほんとにお姉ちゃんしか見とらんから、知らなんだろうけどなぁ。翔くんも、あれはあれで可哀相な子だで。仲良うしてやりん。」
「ばあちゃん……」
いや… 待て。俺が一番可哀相だと思うんだけど。
「さっきの圭介さんからの電話は?なんだったの。あの人、まだあっちにおるんじゃないの?」
「あぁ、うん… 前々から留学したい、っていう希望はあってそれとなく伝えてあったんだけど。お盆にこっちに帰ってくるから、一度話をしようって。」
芹沢のおじさんは、お袋の妹の旦那さんだ。
イギリス人と日本人のハーフで。いまも、仕事の関係で出身地のスコットランドに居を構えている。
「ほんで…… 涼くんは、イギリスへ行くのかね。」
ばあちゃんの、柔らかい眼差しが、胸に痛い。
まるで―――… 全てを見透かされているようで。