月の恋人
◆
あたしがママにこっぴどく叱られた翌日
翔くんが、家に戻ってきた。
妙に、すっきりした顔をして。
これまで見せていた暗い表情や、ふと遠くを見るような仕草は、どこかへ消えてしまったように思えた。
あたしは
翔くんに感じていた影みたいなものが無くなって、嬉しい一方で……どこか、心から喜べなかった。
――― そこには、涼がいなかった。
家に涼がいないと、そこがひどく広く感じられることを知った。
リビングも、廊下も、庭も。
あの茶色いくせっ毛や
いたずらっぽい瞳が、そこに“ない”というだけで。
世界が、急に輝きを失ってしまったように感じた。