月の恋人
◆
「――… 涼は? なんで急におばあちゃん家に行ったの?」
直射日光がじりじりと肌を焦がすような、7月末の午前中。
“スタジオに行くからついて来て”と翔くんに誘われて、2人で並んで駅に向かう途中。
翔くんはそんな風に聞いてきた。
「さぁ……… ママが“気分転換”って言ってたけど…」
「――…ただの気分転換なら、メールの返事くらいするだろ、普通。」
そんな風に探るように翔くんに言われて、不覚にも泣いてしまいそうだった。
――… そんなこと、あたしだって分かってる。
涼が、あたしや翔くんとの連絡を一切絶って、一体いま何を考えているのか。
怒ってるの?
泣いてるの?
会って確かめたいのは、誰よりも、このあたしだ。
家の中に出来た空白を。
あたしの胸の中の空洞を。
涼を連れ戻すことで埋めてしまいたいと願っているのは―――… あたしの、我が儘なのかな。
ねぇ。
戻ってきてよ、涼。
ここに。
あなたの、家に。
あたしの、隣に――…
「―――… 陽菜ちゃん。」
「え?」
翔くんが立ち止まってあたしを見る。
じっと。奥の奥まで、まるで何かを探すように。
「――… 涼と、なにかあった?」
「――… っ…」