月の恋人
頬を撫でていた手を首から後ろに滑らせて
翔くんが、急に肩を引き寄せるから。
よろけて、ストン、と腕の中に納まってしまった。
ちょっと待って
―――… こんな、ところで。
あまり人通りがないとはいえ、往来の真ん中で
誰かに見られたら――…
「――… 陽菜ちゃんって、どこもかしこもフワフワだよね。」
「ちょっ… 翔くん、はなして…」
「ん、待って、ちょっとだけ―――…」
麦わらで編まれたお気に入りの帽子が、ふわり、地面に落ちた。
まるで一本一本を慈しむように
翔くんが、あたしの髪を撫でる。
押し付けられたシャツから
翔くんの匂いがした。
涼とは違う
どこか、安心できない匂い。
慣れないその場所に突然誘い込まれて、足元がふわふわした。