月の恋人




頬を撫でていた手を首から後ろに滑らせて


翔くんが、急に肩を引き寄せるから。



よろけて、ストン、と腕の中に納まってしまった。




ちょっと待って


―――… こんな、ところで。




あまり人通りがないとはいえ、往来の真ん中で



誰かに見られたら――…







「――… 陽菜ちゃんって、どこもかしこもフワフワだよね。」


「ちょっ… 翔くん、はなして…」



「ん、待って、ちょっとだけ―――…」








麦わらで編まれたお気に入りの帽子が、ふわり、地面に落ちた。



まるで一本一本を慈しむように


翔くんが、あたしの髪を撫でる。





押し付けられたシャツから
翔くんの匂いがした。



涼とは違う

どこか、安心できない匂い。






慣れないその場所に突然誘い込まれて、足元がふわふわした。








< 290 / 451 >

この作品をシェア

pagetop