月の恋人



「俺の隣にいて。俺の歌を歌って。どこへも……行かないで。」




「―――…翔、くん…」






髪を撫でていた手が止まって、翔くんの腕にギュッと力が入った。



変なたとえかもしれないけど


抱きしめられているのは自分なのに

なんだか海で溺れた人に、しがみつかれているような気分だった。




それほど、翔くんの力には余裕がなかった。




ねぇ、翔くん。


あたしに、何を求めてるの?





それが、例えば“歌う”ことなら。


あたしは、喜んで歌うよ。




翔くんが、それを望むなら。

あたしは、声が枯れるまで歌ってあげる。







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